新型出生前診断(NIPT)を受けられる医療機関が拡大の方向へ
日本産科婦人科学会は、2020年6月20日、新型出生前診断(NIPT)を受けられる施設を増やす方向へと舵を切りました。
NIPTでは、妊婦の採血のみで胎児にダウン症など3種類の染色体異常がないかを調べることができます。
これまでNIPTを受けられる医療機関は大学病院など109施設のみ。今回は、遺伝に詳しい小児科医と連携するなど条件付きで、産婦人科医1人の診療所などにも広げる方針とのこと。
背景には、営利目的で検査を実施する認定外施設が後を立たずトラブルが生じていることがあります。
厚生労働省が合意すれば、新たな方針のもとに検査を受けられる施設が広がることになります。
立場によって見方が変わる新型出生前診断(NIPT)との向き合い方
NIPTについては、必ず検査の是非が話題になります。
赤ちゃんの先天性疾患を事前に知っておくことで、分娩や産後に備える目的があります
でも実際は、生むかどうかを決めるために受ける人もいるでしょう?障がいの排除、命の選別につながる…
いまは認定施設でなかなか予約が取れなかったり、受けたくても近くに認定施設がない場合もある。認定施設を増やせばその解消になる
検査機関が増えることで、安易な検査が増えかねないのでは?
立場によって見方が変わるのは当然のことでもあり、今後もみんながひとつの結論に納得することはないでしょう。
ちなみに、不妊治療当事者にとって、NIPTはどうでしょうか?
わたしの場合は、まず「悩めること自体がうらやましい」と思っていました。妊娠しなければ悩むこともないですから。
でも一方で、アラフォーで不妊治療をしていると、「もしも赤ちゃんに障がいがあったら…」ということを妊娠前から考えてしまいます。
だからNIPTは決して他人事でもないのです。
でも、やっとの思いで妊娠できたのに、次は「胎児の障がい」ということに向きあわなければならないのは辛いことです。
高齢で出産しようとすると、こんなにも乗り越える壁がたくさんあるのかと思いました。
新型出生前診断(NIPT)は、受けるのも受けないのも勇気がいる
NIPTの検査対象年齢は35歳以上が目安で、希望すれば受けることができます(35歳以下でも他の条件に当てはまるか方は対象となります)。
予めNIPTのことを知っていて、心の準備があれば冷静に判断する余裕もあるかもしれません。
しかし実際は、妊婦検診を通してはじめて具体的に検査のことを知り、考える人も多いでしょう。
そんなとき妊婦さんは、否応なしに「受けるのか?受けないのか?」限られた期間のなかで選択することを迫られます。
ここで、忘れてはならないのは、どちらの決断をするのも決して楽ではないこと。
受けると決めることにも、受けないと決めることにも、勇気がいります。
新型出生前診断(NIPT)は、「誰」にとって必要な検査なのか?
NIPTは検査を必要としている人がいる一方で、そうではない人達をも巻き込んでしまう側面があると思いました。
それは、どういう事かと言うと…
持つ必要のない悩みが増える場合もある
子を望む夫婦なら誰だって、先天性疾患(障がい)を持つ子を育てる可能性はあります。
そのことは、すべての夫婦が潜在的には分かっていること。
でも、妊活をはじめるときに、あえて胎児の先天性疾患について話し合う夫婦はあまりいないように思います。
NIPTは、そんな夫婦に対してもあえて「あなた達はどうしますか?」と投げ掛けて考えさせる検査のように思えるのです。
でもそれって、本当に必要なことでしょうか?
NIPTを前に、多くの夫婦は悩みます。
でもその悩みは、本来持つ必要のない悩みなのではないでしょうか?
不安の連鎖がはじまることもある
「受けるか受けないか?」と選択を迫られたとき、「じゃあ念のため受けようか?」「異常がなければ安心できるし」考える方もいることでしょう。
先ほど「検査を受けるのも、受けないも勇気がいる」と書きましたが、予備知識のない段階では受けないことを決める方が勇気がいるのかもしれません。
では、仮に検査を受けて陰性だった場合に、「これで安心だね」と思えるものでしょうか?
わたしの場合は、NIPTを受けるか考えたことが、障がいについて関心を持つきっかけになりました。
街で車椅子など介助が必要な方を見かけては、「どんな障がいをお持ちなんだろう?」と気になるようになりました。
当然、NIPTで調べる3つの先天性疾患だけではありません。
妊娠中にそれ以外の疾患が見つかる場合もある。
生まれてから分かる疾患もある。
成長の過程で見つかる疾患もある。
そう考えると、「NIPTで3つの染色体異常の有無だけを調べることに、何の意味があるんだろう?」と思ったのです。
検査に「安心」を求めるようとすると、そこに終わりはないことに気付きます。
むしろ不安の連鎖のはじまりになることもあるのです。
知る過ぎることは幸せか?
わたしは2012年に長男を35歳で、2018年に次男を42歳で出産しました。
長男を出産したときにNIPTはなかったので、検査を受けるか受けないか選択する必要もなく、必然的に胎児の障がいについて考える機会もあまりありませんでした。
一方で次男のときは、過去の流産歴から妊婦検診のエコーで見えるNT(首の後ろのむくみ)が気になって仕方がなく、NIPTを受けるべきか、深く考えることになりました。
本当なら、流産を経て再び妊娠できた幸せだけに浸ってマタニティライフを送りたいのに、妊娠後もまた悩んでいる…。
どちらが幸せだろう?と思いました。
昔は神さまの領域で生まれるまで分からなかったことが、いまは出産前にいろいろ分かってしまう。
それで安心なはずなのに、「これは大丈夫か?」「あれは大丈夫か?」と相変わらず不安要素は尽きることがない。
情報が多いことと幸せは、直結しないのだなと思いました。
新型出生前診断(NIPT)を受ける?受けない?決めるのは自分自身
そうはいっても、受けるか受けないか決めなければならない。
NIPTは受けるのに適した時期(週数)が決まっているので、悩んでいられる期間は意外と短いです。
いちばん大切なのは、決めるのは自分自身、ご夫婦自身であること。
周囲の意見、ネット上の意見、社会の賛否両論は参考にはしても、そこにおふたりにとっての正解があるとは限りません。
周囲に相談する前に理解しておきたいこと
制度の理解度は人によりさまざま
仮に身近な人に相談するにしても、NIPTについて自分以上に詳しく理解している人は、周りにいないかもしれません。
特に親世代。
NIPTがはじまったのは2013年。親の時代にはなかった検査制度です(わたしが生れた時代はエコーも普及していなかったそうです)。
わたしは検査について夫と実母に話しましたが、ふたりとも最初は妊婦検診の延長くらいに思っていて、「受けられる検査があるのなら、何でも受けておいたらいいんじゃない?」という反応でした。
NIPTの目的や受ける意味について正確に理解するのは難しいのです。だからこそ、遺伝カウンセリングが行われます。
新型出生前診断(NIPT)は、受けると決めたら迷わない
そして、決めた答えが、おふたりにとって正解なのだと思います。
そして、受けると決めたら迷わない。
これはわたしが悩んでいた時期に主治医から言われた言葉です。
本当にその通りで、受けると決めた後に「本当にこれでよかったんだろうか…」と悩むくらいの気持ちなら、やめておいた方がいいのかもしれません。
だって、NIPTは受けなければならない検査でも、受けた方がいい検査でもありません。
この検査を必要としている方のためにある検査です。
逆に「わたしたちには必要」と思うなら迷うことなく受ける権利もあります。
ちなみに検査前に行う遺伝カウンセリングは、カウンセリング後に「受けない」という選択をすることもできます。
わたし自身は、悩んだ結果、NIPTは受けないことに決めました。
別に受けない選択をしたから偉いわけでも何でもありませんが、そう決めた理由を別の記事でまとめています。
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